実を言うと、箱がとどいたのはずいぶん前なのだが、もろもろの事情でばたばたしたり、例のあれで巣ごもりしたりなどが重なって、かなり遅ればせながらになってしまった。
で、箱の中身はシグマの新型大口径標準ズーム24-70mm F2.8 DG DN Artで、今回はそちらの話をぶつぶつやっていく。
品名の「DG」はフルサイズ対応、「DN」はショートフランジバック仕様のミラーレスカメラ専用設計であることを意味している。そして「Art」は画質を際優先にした製品であることをあらわしている。
同じラインでは14-24mm F2.8 DG DN Artがすでに発売されていて、それにつづく第2弾となる。
ソニーEマウントと、ライカ、パナソニック、シグマの3社が採用するLマウントが用意されている。
価格は税別で135,000円。ポイント還元10%のお店だと税込み120,000円ぐらい。ポイント還元なしのお店ではその分だけ安い108,000円ぐらいが相場になっている。
シグマ公式サイト SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN Artのページはこちら。
目次
ショートフランジバック設計でスリム化と軽量化を達成
いちばんの見どころはスリムになった鏡胴と軽さだろう。
スペック上の最大径は87.8mmあるが、太いのは82mm系フィルターに対応する前枠だけで、全体としてはほっそりした印象に仕上がっている。OS(手ブレ補正)を内蔵していないことに加えて電子式フォーカスリングの採用でメカ的にシンプルにできたこともあるのだろうと思う。
長さは122.9mmあるが、重さはレンズ単体で835gと軽い(数値はいずれもLマウントのもの。Eマウントのは長さ124.9mm、重さ830g)。軽いとは言ってもフルサイズ対応のArtレンズの平均値よりは、であって、シャツのポケットに入れても苦にならないレベルの軽さではない。の前に入らないと思うけど。
小柄なfpに着けて寝ている猫をねらおうとなると、脇を締められないモニター撮影(老眼なので手を伸ばさないとピントが合わないんである)なこともあってピント合わせに手間取ったりするうちに腕がぷるぷるしてしまう。これもまあ、腕力がないのが問題なわけだが、やっぱ手ブレ補正なしはつらいよなぁ、などとしみじみ思う次第である。
ちなみに、一眼レフ用の24-70mm F2.8 DG OS HSM ArtはOS内蔵、メカニカルフルタイムMF対応というのもあって1,020gある(SAマウントの数値)。一方、ミラーレスカメラ用の24-70mm F2.8 DG DN Artはそれより185g軽く、fpに着けた状態で1,257gしかない。ミラーレスカメラはこうでなくちゃね、って感じである。
歪曲収差などをカメラ内補正にまかせていたりしているのも大きいのだろう。そのへんの是々非々はあるにせよ、ワタシ個人としては、どのへんを「標準」と思って設計してんの?などと悪態をつきたくなるレベルにまで大きく重く育った24-70mm F2.8が、愚痴を言わずに持ち歩ける重さにおさまってくれていることのほうが数段ありがたい。
付属のフードはロックボタン付きで軽い力で着脱できる。デザインもきれいでレンズ本体にもよく似合っている。
のはいいのだが、例によってゴミが付着しやすいものだからブツ撮りの前には入念な清掃作業が必要で、なのに撮った画像を見るとやっぱりゴミ消し作業が欠かせないのはやるせない。
滑り止め効果が大事なのは理解できるが、見た目があまりよろしくなくなるのはあまり歓迎したくないのである。
自重で伸びたりはしないけど、安心設計のズームロックスイッチが秀逸
fpとの組み合わせだとカメラがかわいらしいのでずいぶんバランスが悪く見える。と言うか、まあ見たとおりだったりする。
しかも、ズーミングで前枠部がぐいっと伸びる。望遠にすると重さのある前群ユニットが3cmちょっと被写体寄りに移動することになるので重心も動く。それがカメラの軽さの分だけはっきり感じ取れるのが新鮮でもあった。
ただまあ、重いレンズを着けたらレンズの側を下から支えればいいだけなので、実際にはそんなに困ることはない。むしろ、重さの大半を左手で支えることで右手の負担が減るのだから、その分ダイヤルやボタンの操作はしやすくなる。必ずしもデメリットばかりではない。と言うか、都合よく解釈すればいいだけなんである。
で、そのズームリングにはそれなりの重さがあって、ワタシの感覚だと自重で伸びる心配はなさそうに思うのだが、なぜかズームロックスイッチがある。
これが100-400mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporaryのような伸び伸びタイプならありがたみもあるが、そうでないレンズの場合は誤操作の素にしかならない。
面倒だなぁ、と思っていたら、案の定、ロックしたままズーム操作をしてしまったわけだが、そんなところに驚きが待っていた。
なんと、ロックしたままズームリングを回すと自動的に解除されるようになっているのだ。
とか言っても伝わらないような気もするのだが、ようはロック機能として有効にはたらきつつ、操作の邪魔はしない。そういう仕様なのである。
なので、ズームするぞ→あれ、動かない!→ロック解除しなきゃ→シャッターチャンスが行方不明、なんてことはたぶん起きない。安心してロック解除し忘れられるロック機能なのである。こういうのはほんとありがたいです。
AFは速くて快適。フォーカスリングは軽め
AF駆動源にはステッピングモーターを採用していて、その関係もあってフォーカスリングは電子式である。動作は回転角に合わせてピントが移動するリニアタイプではなくて、そろそろと回したときと、くいっと回したときとでピントの移動量が変化する。
多少慣れは必要になるが、素早いピント移動と微調整に必要な繊細さの両方を使えるので便利だし、望遠端で無限遠からじわぁっと回すと撮影距離が「340m」なんて数字が出せるのでおもしろい。
フォーカスリングのタッチはとても軽く、人によっては軽すぎに感じるかもしれない。が、ズームリングあたりを下から支えつつ、人さし指でちょいちょいっとピントを動かすようなやり方をするには都合がいい。
ただ、HSM(超音波モーター)搭載レンズが持つ、メカがつながってる感のある重さになじんでいる人だと併用時に戸惑いそうな気もする。
AFの動きはとても静かでスピードも速い。が、fpは普通のコントラスト検出オンリーなので動く被写体への追従能力については突っ込みづらい。気になる方は、店頭などで例のあれに注意しつつお試しいただきたい。
でもまあ、動きはとにかく速くてスムーズだし、作動音もレンズに耳をくっつけるぐらいにしてようやく聞こえるぐらいの静かさなので、気持ちよく快適に撮れるのは間違いない。
残念なのは、フルタイムMFが使えないところである。
fpの場合、「AF+MF」機能を「入」にしておくと、AF-S(シングルAF)では合焦後に、AF-C(コンティニュアスAF)ではAF作動中に、フォーカスリングを回すことでMF操作が可能となる。
が、シャッターボタン(またはAF-ONを割り当てたAELボタン)から指を離した状態ではMF操作は不可。フォーカスリングを回してもなにも起きない。とてもむなしい。ので、できたらAF作動なしでもMFができるようにしてもらいたいと思っている。
ちなみに、ソニーの新しめのカメラの場合は、カメラ側の設定をうまいことやるとMFモードのままAF作動を可能にできたりする。細かい話はこちらをごらんいただきたい。
絞り開放でも四隅までびっくりするほどシャープ
カメラ内での収差補正が前提と言うことで、シグマのウェブサイトにある性能データページには歪曲収差と周辺光量のデータは載っていない。
fpの場合、周辺光量補正はカメラ内でオンオフが選べるが、歪曲収差はオンで固定。メニュー項目がグレーアウトしていて設定を変更できない。
MTFチャートを見た印象はかなりいい。画面中心部は10本/mmの線も30本/mmの線も高い位置にあって、周辺部の落ち込みも小さい。ようは絞り開放から四隅までシャープに写ると考えていい。
それとサジタル(実線)とメリジオナル(点線)の開きが小さめなところからは、ボケにクセがなさそうな感じもする。
一眼レフ用の24-70mm F2.8 DG OS HSM Artと比べると、中心部は若干いいかもなぁと言うぐらい、四隅は段違いによくなっているはず。という印象だ。
そんな予備知識があったにもかかわらず、撮った画像を見てびっくりしてしまった。
枯れた木と青空の組み合わせはレンズの解像力と周辺光量落ちをセットでチェックできるのでわりと便利な被写体なのだが、普通は周辺部をピクセル等倍で見て「わあ、画がある」ぐらいのところを「キレがいい!」のレベルで写ってくれていたのである。
広角端の絞り開放の四隅までばっちりな大口径ズームというのは、相当にお高いレンズの中でもそんなにはお目にかかれない。古今の大口径ズームを全部チェックしたとかではないが、この24-70mm F2.8 DG DN Artの四隅はかなりいい部類に入ると思う。
建物などで四隅までばっちりにしたいならF8かF11に絞るのがおすすめだが、そういうのでなければ絞り開放から十分いける。ただし、これはあくまでfpでの話であって、もっと画素数の多いα7R IVだとかDC-S1Rだとかの場合はまた事情は変わってくる。ので、そのへんもお含みおきいただきたい。
さて、周辺光量については、ワタシ個人は落ちるのは嫌いではないのと絞れば改善するのもわかっているのでカメラ内補正はオフにしている。開けて撮った画を補正するのは簡単だし、周辺部を明るく補正しても画質がいまいちだとがっかりになるので、だったら絞ったほうが手っ取り早い、というのもある。
で、24-70mm F2.8 DG DN Artの場合は、絞り開放だと四隅だけちょっと暗めになるクセはあるものの、それほどひどくはない。やな感じにはならないレベルだし、絞れば改善する。フラットにしたいなら各焦点距離ともF8まで絞ればOKだ。
歪曲収差は広角側がジンガサ(中央部がタルで、周辺部がイトマキになる複合タイプ)、望遠側がイトマキ型で量としてはそこそこ大きい。が、カメラ内補正を使えばほぼ無視できるレベルになる。
気持ちとしてはArtラインはミラーレスでも光学で歪曲補正をやってほしかったなぁと思う反面、一眼レフ用でそれをやって平均1kgになっちゃったわけだし、というのもある。体力レスなおっさんの身になって考えればカメラ内補正様々。軽量化は天国なんである。
それはさておき、ボケ味も上々だ。前ボケはピクセル等倍で見ると軸上色収差のいたずらかとも思えるところはあったりするが、後ボケはなめらかで気持ちがいい。ふわとろ感では単焦点のArtのほうが上だろうが、ズームのボケとしてなら文句なしだ。
ついでに書いておくと、最短撮影距離は焦点距離によって変化するタイプで、広角端の24mmでは0.18m、35mmあたりで0.217m、50mmあたりで0.285m、望遠端の70mmでは0.38mとなる(両端の数字は公称値、中間の数字はfpの画面上の表示値)。
最大撮影倍率は広角端で約0.35倍と高めになるが、ワーキングディスタンス(鏡胴前縁から被写体までの距離)は3cmほどしかないのでレンズ自体の影や被写体との接触には注意しないといけない。
※作例画像はクリックすると大きく表示されます。
ライバルよりも手ごろな価格なのは大きな強み
スペックが重なるのはLマウントではパナソニックS PRO 24-70mm F2.8、EマウントではソニーFE 24-70mm F2.8 GMの2本。それぞれのブランドのフラッグシップモデルだけあってお値段はものすごい。
それに対して24-70mm F2.8 DG DN Artはほぼ半額。狙ったとしか思えない戦略的価格設定である。今のこのご時世、余裕たっぷりな予算をお持ちの方はそう多くないだろうから、この安さは見逃せない。
加えて軽さという強みもある。これまでのシグマのレンズは「性能がいいんだから重さは我慢しなきゃね」だったが、3本の24-70mm F2.8でいちばん軽いのがシグマだったりするのだから、世の中おもしろい(ニコンのZ 24-70mm F2.8 Sが805gでより軽いのは忘れちゃいけないけどね)。
ただ、軽さ重視なら、Eマウントだけだがタムロン28-75mm F2.8 Di III RXDという選択肢もある。フィルター径67mmのコンパクト設計で550gの軽さもおっさんほいほい的である。しかも、お値段は税別100,000円ぽっきりという存在自体が大バーゲンなのだから強い。
24mmの画角は広角ズームにまかせればいいと割り切れるならチョイスとしては大ありだが、標準ズームで24mmをカバーできるほうが室内などではつぶしが利く。なんてことも考えるとやっぱり24-70mmが有利にはなる。
となると、Artラインならではのシャープさとボケのよさ、愚痴を言わずに持ち歩ける軽さ(あくまで大口径標準ズームとしては、である)、高嶺の花じゃないお値段という好条件ぞろいの良物件なわけである。fpに似合うかどうかは別にしてだけどね。
シグマ24-70mm F2.8 DG DN Art | ソニーFE 24-70mm F2.8 GM | パナソニックS PRO 24-70mm F2.8 | タムロン28-75mm F2.8 Di III RXD | |
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発売年月 | 2019年12月20日 | 2016年4月28日 | 2019年9月25日 | 2018年5月24日 |
価格(税別) | 135,000円 | 278,000円 | 275,000円 | 100,000円 |
レンズ構成 | 15群19枚 | 13群18枚 | 16群18枚 | 12群15枚 |
絞り羽根枚数 | 11枚 | 9枚 | 11枚 | 9枚 |
最短撮影距離 | 0.18~0.38m | 0.38m | 0.37m | 0.19m〜0.39m |
最大撮影倍率 | 0.345〜0.222倍 | 0.24倍 | 0.25倍 | 0.345〜0.250倍 |
フィルター径 | 82mm | 82mm | 82mm | 67mm |
大きさ(最大径×長さ) | 87.8×122.9mm | 87.6×136.0mm | 最大径90.9×長さ140.0mm | 73.0×117.8mm |
重さ | 835g | 886g | 935g | 550g |