中望遠といえば85mmが主流だが、ワタシ個人は100mmないし105mmのほうが目に合うように思っている。
でも、だからと言って、どんな100mm/105mmでもウェルカムなわけではない。本音を言えば、あまり近づきたくないレンズもいる。
その1本がシグマの105mm F1.4 DG HSM Artである。「重い・明るい・高性能」の三拍子がそろったArtラインの中でもとびきりの大口径中望遠レンズであり、2018年のCP+でのステージイベントにおいて社長から「インスタ映えするレンズ」というコンセプトが暴露されて話題を呼んだ。
体力のないワタシなんかが近づいたらバチがあたるぐらいのすごい品物なのだが、ボケマスターはボケましたというべたべたなボケをかます機会を逃がすのも惜しいので頑張ってみた次第。例によってお暇な方だけお付き合いいただければと思う。
目次

SIGMA 105mm F1.4 DG HSM Art 2018年6月14日発売。価格=税別220,000円(フード・ケース付き)。 【specs】レンズ構成:12群17枚 絞り羽根枚数:9枚(円形絞り) 最小絞り値:F16 最短撮影距離:1.0m 最大撮影倍率:1:8.3(約0.120倍) フィルター径:105mm 大きさ・重さ:最大径115.9×長さ131.5mm・1,645g(SAマウント用の数値。Eマウント用は長さ157.5mm、重さ1,720g)
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ポチップ
シグマ105mm Artは空前絶後の超巨大中望遠レンズなのだ
ここでだから書くけど、これ、普通の人は絶対近寄っちゃいけない系のレンズだと思う。サイズも重さも半端じゃないからだ。
最大径が115.9mmの太さで長さは131.5mm。これがシグマSAマウント用の数字で、ソニーEマウント用のは長さが157.5mmもある。
フィルター径は105mm。純正の保護フィルターが2万円とか3万円とかしちゃうレベルの巨大さだし、だいたい焦点距離と同じ数字なのもねらっているとしか思えない。
フォーカスリングなどにはシーリング処理、前玉には撥水・防汚コーティングがほどこされている。並みのカメラバッグにおさまらないこのレンズを雨や水しぶき、ホコリから守ってくれる。
そのうえ着脱式の三脚座まで装備している。しかもワタシ好みのアルカスイス互換だったりするのはうれしい。
レンズフードも一般的なバヨネット式ではなくて、超望遠系によくあるカブセ式。カーボンファイバー含有ポリカーボネート製で頑丈そうだ。ようするに、徹底して目立つことを重視した仕様が盛り込まれているのである。
その分重さも増し増しである。公式サイトによるとEマウント用のは1,720g。我が家のタニタ製キッチンスケールではかったところ、三脚座込みの実測値は1,732gだった。ついでなので、それぞれのパーツの数字もあげておく。
ゴムリングと書いたのは三脚座をはずしたところに付けるアラ隠しの輪っかで、正式名称はプロテクティブカバーPT-21という。105mm Artを買うともれなく付いてくる。
携帯時の重さは三脚座付きのセットで1,866g。三脚座なしだと1,760gとなる。貧弱なおっさんがレビューすることなどこれっぽっちも考えていないのは明白である。
貧弱なおっさんとしては気が滅入る数字だが、ここで愚痴っていてもなにも解決はしない。それに同じシグマの70-200mm F2.8 DG OS HSM Sportよりはまだ少し軽い。うん。ちょっと勇気が出てきた気がするぞ。
ボケ欠け現象とピントには特に気をつけるべし
三脚座をはずせば106g軽くできるのだが、この重さをマウント座金に支えさせるのもなんだし、インスタ映えするポイントを削るのも気が引ける。
ので、三脚座の吊り金具にストラップを着けることにする。こうするとぶら下げているときは上下逆さまになるが、撮るときにはストラップが邪魔にならなくて具合がいい。
さて、このレンズを使うにあたって決めた事柄を書いておきたい。
- サイレント撮影機能をオンにする
- ピント拡大でチェックしてから撮る
- できるだけ「よいしょ」と言わない
以上の3点である。
ワタシが使っているα7R IIIは(と言うか、ソニーのミラーレスカメラは)電子先幕シャッターでの運用が基本になっている。
が、電子先幕シャッターを使って高速シャッターを切るとボケ像が欠けて写ることになる。
実際、どんなふうになるのかは以下の記事「電子先幕シャッターでボケ像が欠ける問題についての実験と考察」を参照していただきたい。
電子先幕シャッターをオフにして、前後幕ともにメカシャッターで撮ればボケ欠け問題は回避できるが、そうするとレリーズタイムラグが長くなる。それもおもしろくない。
なので、サイレント撮影機能をオンにして電子シャッターで撮りましょうというわけだ。
それにもうひとつ。露出をバラす際のフレーミングのズレを軽減したいこともあって、連続ブラケットにサイレント撮影を組み合わせて使うことにした。
これについてはこちらの記事「手持ちブラケットでフレーミングがばらつくのを抑える方法を考えてみた」で紹介している。
連続ブラケットは、セットしたコマ数(ワタシは0.3EV・5コマにしている)をシャッターボタン全押しで一気に撮影するもので、短時間に撮り切れる分フレーミングの動く量も小さくてすむ。
機材の重さや画角に腕力が負け気味なときにフレーミングがよたよたっと動いてしまうのが気になるので最近使いはじめた方法だ。これだとシャッターショックによる2コマ目以降の微ブレも防げるから安心なのだ。
ただし、撮った感は皆無になるので、そのへんちょっとおもしろくないのは我慢しないといけない。
2つ目のピント拡大を使うのは絞りを開けて撮るときのマナーだと思っている。
なにしろ、被写界深度ってなんですか?的レンズを4240万画素で撮ったのをピクセル等倍で見てピントの良し悪しをうんぬんしようというのだ。
実際、AF作動後に拡大して見たら、花の輪郭にピントが合っていて、雄しべや雌しべは微妙にボケている、なんてことがけっこうな頻度で起きる。合焦マークが出ているからといってそれで安心してはいけないのが大口径レンズの大変なところである。
その点α7R IIIのボディ内手ブレ補正が頑張ってくれるので、12.4倍拡大でも正確なピント合わせができた。風で枝ごと揺れちゃうのはどうしようもないけどね。
最後のは言わずもがなである。おっさんなので、重たい機材を構えるときにはついつい「よいしょ」と言ってしまう。ワタシ自身は基本的に静止画オンリーだが、動画対応おっさんを目指すのであれば、重量級機材であっても無音かつ無言で構えられるよう配慮が必要なのである。
シャープさもすごいしボケのふわっと感もものすごい
さっきも書いたとおり、重さはArtレンズでいちばんなのだけれど、見た目も相応に大きいし、その分気合いを入れて構えるせいか、そんなに大変には感じなかった。
と言って、けして軽々持てるレンズもない。しんどいにはしんどい。肩は凝るし握力的にもきつい。足腰の負担も無視できない。が、くたびれ損はない。疲れる分よりもずっと上の写りを見せてくれる。
なにしろ、質量と画質が比例関係にあるとしか思えないシグマArtラインでいちばんの重さである。解像力の高さは保証されたようなものだ。さらに「BOKEH-MASTER」を名乗るだけあって、ボケ描写も見どころだ。
解像力は絞り開放から安定のキレっぷりで、四隅も少し絞ればばっちりになる。これもArtのあたりまえだが、遠景から至近距離まで、ピントが合った部分のシャープさは、α7R IIIを買っておいてよかったぁ、と思える部分。
ローパスフィルターレス4240万画素の画像をピクセル等倍で見る楽しさときたらもう、ね。まあ、これだけの画素数を生かし切れるサイズのプリントをやる機会なんてほぼないだろうし、こう言うのが本末転倒なのもよぉくわかっているけど、プリントするのがもったいないと思えるレベルのシャープさなのだ。
この手の楽しさにひたりたいならばりばり絞って撮るといい。中望遠で遠景であっても4240万画素のピクセル等倍観賞ともなれば被写界深度はぐっと浅くなる。だから少なくともF5.6、回折補正機能のあるフルサイズ機ならF16まで絞ってもかまわない。
さすがに絞り切ると解像は多少落ちるものの、1枚だけ見ている分にはそんなには気にならないと思う。
ともあれ、きっちり絞って深度をかせいでおくと仕上がりを見るときのスクロールがはかどるのは間違いない。
明るいレンズは絞ったら値打ちがない、などと言う人もいるみたいだけど、開けた画と絞った画は違うんだから絞って撮らないほうが明らかにもったいない。開放でしか撮らないというのはワタシ的には前玉3枚捨てるのと同じぐらいに愚かしい行為だと思う。絞って撮るならここまで巨大な前玉はいらないよなぁ、と思う部分があるのもたしかだけどね。
で、お待ちかねのボケの話をする。一般に、前ボケと後ボケはシーソーの関係にあって、前ボケをよくすると後ボケが悪くなる、というものらしい。
前ボケを作ることはそんなにないけど、背景はどの写真にもある。ということから通常は後ボケを重視したチューニングにすることが多いらしい。
同じ傾向はArtラインのほかのレンズにもあるが、105mm Artはその傾向が強めなように感じられる。
絞り開放の前ボケはエッジが張った少し硬い印象のボケ方で、ピクセル等倍で見ると輝点のボケがリングっぽく写っていたりする。ただし、そういうのはα7R IIIでの話で、2400万画素クラスならあまり気にならないんじゃないかと思う。
それとは対照的に、後ボケはとろとろなボケ方をする。ハイライトのわずかにボケた部分をふうわりと包み込むようにハロが出ていて、それがまたかわいらしいと言いたくなる繊細さでとにかくきれい。女性ポートレートをふわっと仕上げるのが好きな人ならどはまりするタイプではないかと思う。
最短撮影距離が1.0mとあまり寄れないのは残念だけど(このサイズのクローズアップレンズってあるんだろか)、花とかを撮っても楽しい。

絞り開放だけどピントが合っている木の幹の描写がすごい。それと背景のボケ具合もごらんいただきたいところ。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/4000秒 -0.3EV ISO100 AWB

絞った状態の解像力がまたすごい。絞って撮るのはもったいない気もするけど、被写界深度があったほうが楽しい画もあるわけで。 α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF7.1 1/800秒 -2.7EV ISO100 AWB

明るいレンズだと夜スナップも楽しい。ピクセル等倍で見ても軸上色収差っぽいのはほんの少しだけ。素晴らしい。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/250秒 -1.0EV ISO100 AWB

たしか最短撮影距離付近で撮ったカット。ボケが大きいだけに背景の整理はものすごく楽。だけど、ピントが微妙すぎて大変だったりもする。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/640秒 0.0EV ISO100 AWB

これぐらいの距離感でこのボケ。周辺光量は落ちているけど、パッと見には気になりにくいと思う。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/2000秒 -0.3EV ISO100 AWB

ISO50に落としての絞り開放。左側の建物の屋根のエッジにピントを合わせて、右手の煙突をぼかす。F2だとボケ感が薄れて普通の画になっちゃうんだろうなぁって思う。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/5000秒 -0.7EV ISO50 AWB

口径食の少なさが105mm径の威力。絞り開放での点光源ボケはこんな感じ。1段絞ればだいぶ丸くなるんじゃないかと思う。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/640秒 -1.0EV ISO50 AWB

これもピクセル等倍で見ると、ピントが合った部分のシャープさと立体感に溜め息が出る。前後のボケもごちそうレベルでよい。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/500秒 -0.3EV ISO100 AWB

つい撮ってしまう消火栓。塗料の凹凸感とか錆びた部分のざらっとした感じがリアル。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF1.4 1/1250秒 -1.0EV ISO100 AWB

ドアの持ち手全体にピントが合うように(厳密には「ピントが合っているように見えるように」であるが)F4まで絞っている。開けても楽しいけど、絞っても楽しい。ただし、重さは変わらない。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF4 1/1000秒 -2.0EV ISO100 AWB

遠景だとF4とかF5.6ぐらいがいちばんシャープ。あきれるぐらいシャープ。センサーダストだってよく写る。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF5.6 1/1250秒 -1.0EV ISO100 AWB

ちょい絞り気味のF2.5。で、周辺光量はこれぐらい。落書きしたくなるぐらいの青が好き。
α7R III 105mm F1.4 DG HSM Art 絞り優先AE 絞りF2.5 1/6400秒 -1.0EV ISO100 AWB
体力の限界を考えてそれでも欲しい人だけ買ってほしい
ぶっちゃけ、このレンズが欲しい人のほとんどはポートレートを撮る人で、そうじゃないとしてももかなりのボケ好きだろう。ボケマニアと言ってもいい。そういうたぐいの人たちを満足させられる条件は備えているので、そのへんは安心してもらっていいと思う。
ただし、重さはいただけない。写りがいい分の重さなのだと言われても、それでもやはりこの重さはいただけない。1本だけを持ち歩くのでも十分にしんどいし、ましてシステムでと考えると真っ暗な気持ちになる。
人には限界というものがあるし、ワタシ的にはこのレンズはわりと限界の向こう側な感覚なのである。近い画角の85mm Artや135mm Artならもうちょっとマシなサイズと重さなこともある。
そういうのも考えると、この焦点距離じゃなきゃいやなんだ、とか、このボケがどうしても必要なんだ、と言い張れる人だけが選ぶべきレンズなのだろうなぁという気がする。
面倒くさい人なんだろうなぁって気もするけど。

α7R IIIにはRRSのLプレートを着けてるから目立たないけど、素の状態だとボディがめっちゃ小さく見える。手持ちのバランスは推して知るべしで、延長グリップなり縦位置グリップなりを用意するのが利口だと思う。
↓キヤノンEF、ニコンF、シグマSAマウントのはこちら

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>手持ちのバランスは押して知るべしで、
「押して」じゃなくて「推して」だよ。
ご指摘の箇所を修正しました。