ことの起こりは、ソニーα7R IIIのフリッカーレス撮影機能をオンにして、かつフリッカーを検知したときだけ画面上に表示される警告マークである。
フリッカーレス撮影機能をオンにしないとフリッカー検知をしない仕様であればオンのときだけ「フリッカー出てるよ」という警告が表示されるのはあたりまえの対応だろう。
が、ユーザーからすれば、フリッカー警告が出て欲しいのはむしろフリッカーレス撮影機能がオフのときではないか。
「フリッカーレス撮影機能はオフになってるけど、今、フリッカー出てるよ」
と教えてくれるほうがずっとありがたい。と言うより、そうであるべきだと思う。
というのもあって、各社のフリッカーレス撮影機能について調べてみたわけである。
例によって長くなるだろうから、お暇なときにご覧いただくのがよいと思う。
目次
フリッカーレス撮影機能とは
わかってる人も多いだろうけど、一応念ためで書いておく。
日本の交流電源は50Hzまたは60Hzの周波数なので、蛍光灯や水銀灯といった光源は100Hzまたは120Hzの周期で明滅している。これによるちらつきがフリッカーだ。
人間の目はおおざっぱなので100Hzとか120Hzとかの明滅は点きっぱなしにしか見えないが、カメラはずっと几帳面にできているのでその明滅に影響を受けてしまう。
具体的に言うと、画面の上下で露出や色味に差が出たり、変なシマシマがあらわれたりする。
ただし、これはある程度の高速シャッターで撮ったときの話で、明滅周期よりも遅いシャッタースピードだと目立たなくなる。なので、従来はフリッカー対策はシャッタースピードを遅くして撮るのが基本だった。
が、それだと室内でのスポーツ撮影。というので考え出されたのがフリッカーレス撮影機能だ。
明滅するフリッカー光源(キヤノンの使用説明書に出てくる用語だが、わかりやすいのでここでも使わせてもらう)がもっとも明るくなった瞬間をねらってシャッターを切る、というもので、ワタシの記憶ではレンズ交換式カメラではキヤノンが最初に搭載した機能である。
フリッカーレス撮影機能を備えたカメラをリストアップした
この記事を書いている2019年2月20日現在、フリッカーレス撮影機能を搭載している国内メーカーの一眼レフおよびミラーレスカメラをリストアップしてみた。
ワタシが把握している範囲での話なので、漏れているのもあるかもしれない。
オリンパス
- E-M1X
キヤノン
- EOS-1D X Mark II
- EOS 5D Mark IV
- EOS 5Ds R
- EOS 5Ds
- EOS 6D Mark II
- EOS 7D Mark II
- EOS 80D
- EOS 9000D
- EOS Kiss X9i
- EOS R
- EOS RP
ソニー
- α7R III
- α7 III
- α99 II
ニコン
- D5
- D850
- D500
- D7500
- Z7
- Z6
フジフイルム
- X-H1
- X-Pro2
- X-T3
- X-T2
- X-T30
ほかにも、動画モードのみ、動画とライブビュー映像のみの限定的なフリッカー低減機能を持っているカメラは多いが、交流光源下での静止画撮影向けの機能を備えているのは、ざっと見たところはこれだけである。
フリッカーレス撮影機能をオンにしたときの挙動について
各社のカメラのフリッカーレス撮影機能についての使用説明書(PDF版である)などの記述を拾ってみた。全部をチェックしたわけではないので、機種による違いはあるかもしれない。
オリンパスの場合
オリンパスはE-M1 Mark IIに[フリッカースキャン]機能をファームアップで追加したが、これはシャッタースピードを細かく設定することでフリッカーの影響を軽減できるというもので、正直あまり便利だとは思えなかった。
それが新しいE-M1Xには、明滅に合わせてシャッターを切る方式の[フリッカーレス撮影]機能が装備された。注意事項として、
「シャッター速度が遅いときは、通常のタイミングで撮影されます」
「シャッターが切れる際にタイムラグが生じたり、連写速度が低下する場合があります」E-M1X取扱説明書 192ページより
という記述がある。
なお、[フリッカーレス撮影]を[On]にすると画面上に[FLK]アイコンが表示される。フリッカーを検知したかどうかの警告等はない。
キヤノンの場合
キヤノンは搭載している機種数がとても多く、フラッグシップ機からエントリークラスまでカバーしているのがすごい。
EOS 5D Mark IVの使用説明書を見ると、[ファインダー内表示設定]で[フリッカー検知]にチェックを入れておくと、フリッカーを検知したときにファインダー内に[Flicker!]アイコンが表示される。と書かれている。
このアイコンは、
- フリッカーレス撮影が[する]:点灯
- フリッカーレス撮影が[しない]:点滅
というふうに変化する。つまり、[フリッカーレス撮影]の設定にかかわらずフリッカー検知は常時行なっていて、点滅表示を確認したら[フリッカーレス撮影]を[する]に切り替えればいい。
わかりやすいしユーザーの手間も少ない。これでフリッカーが検知できない条件でも普通に撮れるなら満点だ。注意書きは、
[フリッカーレス撮影]を「[する]設定時にフリッカー光源下で撮影を行うと、レリーズタイムラグが長くなることがあります」
「連続撮影速度が遅くなったり、連続撮影間隔にばらつきが生じることがあります」EOS 5D Mark IV使用説明書 215ページより
また、160ページには、高速連続撮影の連写スピードが7.0コマ/秒から6.6コマ/秒に低下すると書かれている。
ちなみに、EOS-1D X Mark IIの場合は、最高14コマ/秒のところを、100Hz光源では11.1コマ/秒、120Hz光源では10.9コマ/秒になると書かれている。ハイエンド機だからなのかもしれないが仕事が細かい。
最新ミラーレスカメラのEOS RPの場合は、ちょっと違った作法がある。
([フリッカーレス撮影]を)「[する]に設定したあとや、光源が変化したときは、撮影する前に[Q(クイック設定)]ボタンを押して[フリッカーレス撮影]の項目を選び、[INFO]ボタンを押してフリッカーの検知動作を行ってください」
EOS RP詳細ガイド 179ページより
なぜだかはわからないけれど、EOS 5D Mark IVより面倒くさい印象である。これはEOS Rも同じ仕様である。
実際のところ、撮影中に光源が変わることはそんなにないだろうから気にしなくていいのかもしれないけれど、半押し等で検知する方式じゃないのは便利じゃない気がするのである。
なお、高速連続撮影モードの連写スピードが5.0コマ/秒から4.0コマ/秒に低下する(EOS Rは8.0コマ/秒から5.4コマ/秒になる)。ただし、このスピードでサーボAFが追従可能かどうかは不明だ。
ソニーの場合
ワタシが使っているα7R IIIは、[フリッカーレス撮影]を[入]に設定するとシャッターボタンの半押しでフリッカー検知が行なわれる。フリッカーを検知した場合は画面上に[Flicker]アイコンが表示される。以下のような注意書きが添えられている。
「レリーズタイムラグがわずかに長くなることがあります」
「連続撮影速度が遅くなったり、連続撮影感覚にバラツキが生じたりすることがあります」α7R III取扱説明書 112ページより
最初に書いたとおり、ワタシ的にはあまりお利口じゃない仕様だと思う。
キヤノンの一眼レフ(ニコンも同じだった)はフリッカー撮影機能がオフでもフリッカーを検知すると教えてくれるのだから、傘を差さないと雨が降っているかどうかわからない的仕様はなんでだろねぇって思えてしまう。
ただし、自宅でテストしてみたところ、自然光のみの条件でフリッカーレス撮影オンでの連写スピードの低下はなさそうなので、タイムラグが長くなる度合いによっては常時オンでいけるかもしれない。と思っている。
ニコンの場合
ほかのメーカーと違って一眼レフでは[フリッカー低減機能]、ミラーレスカメラでは[フリッカー低減撮影]というふうに名称が違う。また、警告表示や注意事項にも違いがある。
D850の使用説明書によると、キヤノンと同じくフリッカーを検出したことをアイコンで警告する機能がある。
[フリッカー検出の表示]を[する]に設定した場合、[フリッカー低減機能]の設定によってファインダー内の[FLICKER]アイコンの表示が以下のように変化する。
- フリッカー低減機能が[有効]:点灯
- フリッカー低減機能が[無効]:点滅
このあたりの挙動はキヤノンの一眼レフと同じだ。注意書きも、
「次の場合など、条件によって連続撮影速度が遅くなることがあります」
「静止画撮影メニュー[フリッカー低減]の[フリッカー低減機能]が[有効]のときに、フリッカーが検出されている場合」D850使用説明書 111ページ
ただし、[フリッカー低減機能]を[有効]にしたときの連写スピードまでは書かれていない。ここはキヤノンのほうが親切だ。
とは言え、常時フリッカー検知を行なって必要なときに警告してくれるし、ユーザーの手間も少ないのはありがたい。うらやましい。
Zシリーズでは名称が[フリッカー低減撮影]に変わっている。検出表示についての設定はなく、これが省略されているのか、不要になっただけなのかはわからない。
[フリッカー低減撮影]を[する」に設定した場合の注意書きとしては、
「連続撮影時に撮影速度が遅くなったり、撮影間隔が一定ではなくなることがあります」
「フリッカー低減機能を使うと、光源によってシャッターのきれるタイミングが少し遅れることがあります」Z7/Z6活用ガイド 183ページより
とある。その下に、
「次の場合など、静止画撮影メニュー[フリッカー低減]が無効になります」
「レリーズモードが[高速連続撮影(拡張)]の場合」
「露出ディレーモードが有効な場合」
「シャッタースピードが1/100秒より低速の場合やBulb(バルブ)またはTime(タイム)の場合」同上
とも書かれている。
[高速連続撮影(拡張)]時や[露出ディレーモード]設定時にフリッカー低減が無効になるというのは落とし穴かもしれないので注意したい。
フジフイルムの場合
フジフイルムも機能の名称は[フリッカー低減]で、あまり重視していないような印象を受ける。
と言うのは、ウェブサイトの各機種のページを見ると、X-H1では作例と図も使って解説してくれているのに、X-Pro2やX-T2では新ファームによる追加機能としてテキストだけの紹介。X-T30はスペック表の[その他静止画撮影時機能]の最後にひと言載っているだけである。
X-T3にいたっては記述すらなくて、X-T2に追加されてるんだからX-T3にないはずはなかろうと思って使用説明書PDF内を検索してようやく機能の存在を確認した。希少生物みたいだ。
取説の記述もあっさりしたもので、
「ONにすると、蛍光灯などの照明下で画面や画像に発生するちらつき(フリッカー現象)を低減します」
「フリッカー低減をONにすると、撮影にかかる時間が長くなります。また、電子シャッターは使えません」X-H1使用説明書 128ページ
「えっ、これだけ?」と思うかもしれないが、ほんとにこれだけである。
で、各社にこんな質問を投げてみた
質問の趣旨は、
「フリッカーレス撮影機能を常時オンにしておくとなにかデメリットはありますか?」
である。
どのメーカーも、フリッカーレス撮影機能を使うと、
- レリーズタイムラグが長くなることがある
- 連写スピードが低下することがある
- 連写時の撮影間隔がばらつくことがある
と書いているが、これはたぶんフリッカーを検知した場合の話だろう。で、気になったのは、
「フリッカーが検知されなかったときは?」
である。
フリッカーが検知できない状態、たとえば自然光のみでの撮影の場合でも、タイムラグが伸びたり連写スピードが落ちたりするのであれば、必要なときだけフリッカーレス撮影機能を使うようにしたほうがいい。
のだけれど、フリッカーが検知できないときはタイムラグも連写スピードも変わらない、のであれば、常時オンでいいことになる。
ただまあ、それで丸くおさまるなら各社ともフリッカーレス撮影機能オンを初期設定にしちゃってるはずで、そうじゃないってことは、やっぱりなにかしら問題があるに違いない、と考えるのが普通である。
が、起きる問題の内容によってはシカトできるかもしれない。動かないものしか撮らないならタイムラグが伸びるのは許容できるだろうし、連写スピードの落ち方がたとえば10コマ/秒から9.5コマ/秒に落ちる程度なら受け入れる人もいるだろう。
各社からの回答と考えうる運用法について
質問に対する各社の回答をまとめると、大筋としては、
「フリッカーがない環境ではオフがおすすめ」
とのことである。
1社をのぞいて、フリッカーレス撮影(フリッカー低減)機能をオンにすることでレリーズタイムラグが長くなったり、連写スピードが遅くなったり、連写中のコマ間がばらついたりといった現象が起きうる。
メーカーによって「起きる」だったり「起きる場合がある」だったりという違いはあるが、なにがしかの影響は避けられないと考えたほうがよさそうだった。
それとここが肝心なのだが、このことはフリッカーを検知したかどうかとは別の問題で、つまり、フリッカーがない自然光のみの条件であっても起こる、ということである。
以下、ワタシなりの運用方法を書いてみる。
E-M1Xは常時「On」運用で問題なし
回答の内容がほかと違ったのはオリンパスだけで、したがっておすすめの運用方法も他社とは違っている。
「フリッカー非検出状態であれば、タイムラグが長くなることはありません」
「連写コマ数の低下もありません」
ただし、「フリッカーレス撮影」を常時「On」にしておく場合、「フリッカーレスLV」を「オート」にしておいたほうがいいとのこと。
「フリッカーレスLV」はライブビュー映像のちらつきを軽減する機能で、「オート」にしておくと電源周波数を自動検知する。これを「50Hz」または「60Hz」にしておくと、フリッカー光源下での撮影だと誤認識する場合があって、そうするとタイムラグが長くなったりする可能性があるらしい。
そういうわけなので、E-M1Xの場合は、「フリッカーレスLV」を「オート」にしたうえでなら「フリッカーレス撮影」は常時「On」でOK。
フリッカーを検知しなければレリーズタイムラグが長くなることも、連写スピードが遅くなることもない。
なので、「フリッカーレス撮影」を「Off」にするのは、フリッカー光源下でフリッカーによるちらつきがあってもかまわないから連写スピードを維持したいとき(普通の人には考えなくていいシチュエーションだと思うが)にかぎられると言っていい。
キヤノンは基本的に「オフ」推奨だが、条件次第で可
オリンパス以外は、フリッカー光源下でなければフリッカーレス撮影(フリッカー低減)機能はオフにしておくのがおすすめとのこと。これはカメラがフリッカーを検知する動作を行なうことによる影響があるためだ。
メーカーごとに少しずつ違う部分もあった。
キヤノンは「レリーズタイムラグが長くなります」とのこと。連写スピードとコマ間のばらつきは「場合がある」だったが、タイムラグについては違った。
また、「色味に関してもばらつく場合があります」とのこと。
一方で、「単写する場合はそこまで悪さはいたしません」でもあるので、細かいことを気にしないなら常時オン運用もあり。もちろん、結果については自己責任になるのでそのへんはお含みおきいただきたい。
「発生することがある」のでオフ推奨なソニー
やはり、タイムラグが長くなる、連写速度が低下する、コマ間がばらつく現象が「発生することがございます」とのこと。フリッカーのない条件ではオフにするのがおすすめだそう。
ただ、ワタシが自前のα7R IIIで試したところでは、「フリッカーレス撮影」を「入」にして自然光だけの条件で連写してみてスピードの低下は見られなかった。
とは言え、レリーズタイムラグがどうなるのかは計れる環境がないのでわからない。
というのも考え合わせると、やはりフリッカー光源以外ではオフにするのが安心なようだ。
ニコンは「連写スピードが低下する」との回答
ニコンからの返信には、
「フリッカー低減ONにしている場合、検出しているか否かに関わらず、フリッカー低減OFFよりもコマ速は低下します」
とあったが、レリーズタイムラグやコマ間のばらつきについては触れていなかった。
言葉どおりにとらえるならば、フリッカーがない環境においてはレリーズタイムラグが長くなることはなく、コマ間がばらつくこともない、となる。
つまり、レリーズタイムラグが長くなる場合があるのはフリッカー光源下のみということだ。
連写スピードが遅くなってもかまわないのであれば常時オンでの運用もありかもしれない。まあ、こちらも自己責任で、という話だけれど。
フジフイルムも必要なときだけオンがおすすめ
フジフイルムもほぼ似たような感じで、フリッカーレス撮影がオンになっていると自然光だけの条件でも連写スピードが落ちたりなどの現象が起きるそうで、やはり必要なときだけオンにするのが適切なのであるらしい。
まとめ
予想どおり文字数たっぷりになってしまったが、ワタシ的にはしばらく前からの悩みがクリアになってすっきりした。
ざっくりまとめると、オリンパス以外は光源に合わせて選ぶのが吉。ただし、レリーズタイムラグが多少長くなったり、連写スピードが落ちたりしてもかまわないなら常時オンもありだと思う。
つまり、普段はフリッカーレス撮影をオンにしておいて、レリーズタイムラグや連写スピードが大事なシーンでだけオフにする、というやり方だ。
これだと撮影時の光源がフリッカーがあるかどうかを気にする必要がないのが便利だ。
ただし、メーカー非推奨の運用方法となるので、トラブルが起きたりしな保証はない。問題が起きたとしても、もちろん誰も(当然ワタシも、である)責任などとらない。その覚悟でやってくださいということだ。
白熱灯に見えて電球色の電球型蛍光灯だった、なんて罠があったりしても引っかからないというメリットが得られる。
そのどちらもいまいちだなぁ、とお思いの方にはE-M1Xをおすすめする。現時点ではフリッカーレス撮影機能を常時オンにしても大丈夫、とメーカーがお墨付きをくれた唯一のカメラである。
安心だよ。