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このところ、シグマ製品を取り上げる機会がやたらと高くなっている。
二代目カミソリマクロこと70mm F2.8 DG MACRO Artについて書いたのがつい先月のこと。なのになぜか今月にはもう新しい箱が届いている。
中身はまたもシグマのレンズ。135mm F1.8 DG HSM Artというでかいレンズである。
ちなみに、10%ポイント還元のある大手量販店の通販サイトでは税込み145,000円前後、ポイント還元がないところだと税込み130,000円程度で売られている。
レンズとしてはけして安くはないが、F2やF2.8もある単焦点の135mmとしては中の下ぐらいのお値段である。スペックから考えればお買い得なぐらいだ。
目次
使い手に覚悟を求める大きさと重さ
単焦点の135mmと言えば、MF時代は望遠レンズの入門用として人気があった焦点距離だし、価格的にも手ごろなものが多かった。
それがズームでカバーするのがあたりまえになったこともあって、単焦点は大口径タイプのみが生き残っているぐらいで、昔ながらのコンパクトタイプは消えてしまっている。
この135mm ArtもF1.8というクラストップの明るさを誇る。
箱もでかいし前玉もでかい
F1.8の大口径とあってかなり大柄だ。化粧箱からしてでかい。
はかってみると、3辺の合計が54cmあった。宅配便の60サイズぎりぎりのサイズで、70mm Artの箱と並べてみると量感の違いに圧倒される。箱に圧倒されていてもどうしようもないが。
Eマウント(ソニーのミラレースカメラ用である)のはカメラのフランジバックが短いぶん鏡胴が長くなっていて、公表されている数字は最大径91.4×長さ140.9mmとなる。
付属のフードも最大径が102mmほど。長さは68mmもある。レンズに付けた状態(リアキャップ付き)で213mmもある。
フィルター径が82mmで、PLとかを常用している人には泣けるサイズだろう。
フロントのレンズキャップをはずすと、その大きな前枠いっぱいにレンズが、どん、と存在感を主張している。思わずよだれがわいてくる。
これだけ巨大な前玉を見たのはいつ以来だろうってまじめに考えてしまったが、実は14-24mm F2.8 DG HSM Artの前玉も同じぐらいの大きさである。
なお、85mm F1.4 DG HSM Artはフィルター径が86mmなので、たぶん前玉ももう少し大きいはずだ。
持って実感する重さ
重さはSAマウント(シグマ用である)のが1,130g、Eマウントのは1,230gある。ワタシが知っている範囲の135mmレンズの中ではいちばんの重さだ。
持ち上げるのに、つい「よいしょ」と言ってしまう。おっさん化のきわみなわけだが、毎回のように「よいしょ」が出てくるのだから、やっぱり重いんである。
RRSのLプレートを取り付けたワタシのα7 IIとの組み合わせだと実測で2,008g(ストラップなしで、フードとかアイカップとかは込みの状態)。2リットルのペットボトルの重さである。
首にかければ首に、肩にかければ肩に、その重みがずっしりのしかかる。相当な覚悟を持って、行くぞ、と心に決めて、それでようやく家の玄関を出ることができる。そういう重さなのだ。いや、めっちゃ大げさだけど。
ただ、気軽に持ち歩こうなどと思ったら、間違いなく泣きを見る。それは間違いない。
快適なAF動作とMF操作
AF駆動源はHSM(超音波モーター)で、メカニカルのフルタイムMFが可能なところは70mm Artとは違う。
ネイティブのEマウントレンズなので、AFの動作はスムーズそのもの。AF-C(コンティニュアスAF)モードでも静かにかつ素早く動いてくれる。ストレスはない。
ただ、被写界深度は紙のように薄いので、狙ったとおりのポイントにちゃんとピントが合っているかどうかはしっかりチェックする必要はある。
フォーカスリングも滑らかに回る。操作していて気持ちがいい。
自動的に拡大する「MFアシスト」や手動で拡大表示のオンオフを選べる「ピント拡大」を使えば正確なピント合わせがやりやすい。
ただ、体力が足りないものだから、カメラを持つ手がぷるぷるする。拡大表示すると、さらにぷるぷるする。
そこはボディ内の手ブレ補正が頑張ってくれるのだが、拡大すると少し残ったかくかくな動きまで拡大される。
5.9倍ならまだしも、11.7倍にすると、だいぶかくかくしてしまう。ようは補正のパワーに対して、手持ちでの安定性が不足しているのだ。
補正しきれないぶんの手ブレが、かくかくした動きにあらわれていて、それがちょっと落ち着かない。
そこが問題にならなければ、気持ちよくピントが合ってくれるし、気持ちよくピントを合わせられる。上々である。
シャープさとボケ味と立体感と
さて、気になる写りの良し悪しについて。
ひとことで言えば絶品。これに尽きる。
シャープさもボケ味も立体感も全部いい。
写りを見れば、大きさとか重さとかはどうでもよくなってしまう。それぐらいのよさなのだ。
絞り開放からシャープな描写
遠景は絞り開放から文句なしにキレる。
もちろん、開放よりはF2、F2.2、F2.5と絞るにつれてシャープさは増していく。
見た感じ、解像力のピークはF4あたりだろう。
ただ、これは絞りを変えて撮り比べての話で、1枚だけ見れば絞り開放でも十分に素晴らしいシャープさだと感じるだろう。
望遠系だからというのもあるが、周辺部も中心部とあまり差がない。四隅以外はフラットにキレる。その四隅もF2.8まで絞れば問題なくなる。近距離でも描写のシャープなところは変わらない。
最短撮影距離付近でも、画面中央部は絞り開放からシャープな描写でうれしくなる。
ようは、どの絞りでもどの撮影距離でもキレのいいシャープさが味わえる。ということ。
ただし、繰り返しになるが、被写界深度は極薄なので、ピント合わせは注意深く行なわなければならない。
スムーズで上品な後ボケ
もちろん、ボケも最上級。
ピントが合った部分の前後の像の変化はとても滑らかで、被写体の形を感じさせつつふわっととろけていくボケ方をする。
軸上色収差は、コントラストがうんと高い条件では目に付くかもしれないが、今回の撮影ではまったく気にならなかった。
ワタシ的にはご馳走レベルのボケ方だ。
前ボケも基本的には良好だが、コントラストの高い斑点状のパターンなどで少しエッジが強く感じられるカットがあった。
が、ほとんどのシーンでは、後ボケに負けないふわとろ系の滑らかなボケ方をしてくれる。そういうレアケースには注意が必要だが、それ以外は前後とも上質なボケが得られると考えていいと思う。
リアルな質感と立体感
素晴らしいのは質感と立体感の出方だ。
「立体感」にはふたとおりの解釈があって、ひとつは、ピントが合った部分とボケとの違いから感じる奥行きの感覚。被写体と前景や背景との「距離差感」と言ってもいいかもしれない。
もうひとつは、ものの膨らみや厚みが伝わってくるかのような感覚。平面の写真から感じる「3D感」のこと。
ワタシがここで言っている「立体感」は後者のほうで、こちらはむしろ被写界深度が深いときにこそ強くあらわれる。
塗り重ねた塗料の表面のぽこぽこした感じや、錆びた鉄の指に引っかかるざらざらした感じ。そういう素材のニュアンスがリアルに伝わってくる質感のすごさに加えて、被写体の凹凸の度合いを「目で触って」たしかめられるかのような表現力。それがすごい。
たぶん、解像力とコントラストの両方がしっかりしているからこそ味わえる描写なのだろうと思う。
しんどいけど頑張ってみる価値がある
ワタシのα7 IIは2400万画素しかないので、このレンズの実力を全部引き出すことはできない。
が、このレンズの持つすごさは十分に伝わってくる。
開けても絞っても楽しい
最近のレンズではわりとあたりまえのことになってきているとは言え、大口径レンズなのに絞り開放から安心して使えると言うのは、やっぱりすごいことだと思う。
絞り開放での周辺光量落ちはあるにはあるが、この明るさのレンズとしてはむしろ少ないほうだと思う。
ほどほどに球面収差の残ったアマさを好む人にはおもしろみはないだろうが、シャープでボケのいいレンズがほしい人にはばっちりおすすめできる。
上手くなった気がするのが怖くてよい
ただ、写りのいいレンズにありがちな落とし穴もちゃんとある。
このタイプのレンズは、写りのよさのおかげで写真がよく見えるだけなのを、腕が上がったかのように錯覚してしまう力もある。
でもそれは、レンズが勝手にワンランク上の写りに仕上げてくれているだけで、それに頼りきっていてはかえって鈍ってしまう。うまく使えば武器にもなるし、へたに使えば凶器にもなる。
そういうすごさと怖さを両方持ったレンズなのだと思う。
筋トレしてでも使いこなしたい1本
それとやっぱりこの重さはつらい。
体力のなさなら自信があるから言うが、ほんの数時間撮り歩いただけで、右手の握力が死にかけた。
α7 IIのグリップの小ささもあるとは言え、根本的にパワーが足りていないのはだめだめである。
この手の重たいレンズを使うたびに、腕力落ちてるなぁ、よくないよなぁ、と思いつつ、結局面倒だしなぁってなりがちだった。でも、このレンズはまじめに筋トレやって使いこなしてみたい。そうする値打ちがある1本だ。