今回は見映えのよさと写りのよさに加えて操作感のよさも合わせ持つシグマ「I」シリーズを取り上げる。
45mm F2.8 DG DN Contemporaryは以前にα7R IIIとの組み合わせで紹介しているし、SIGMA fpのレビュー記事の作例もこのレンズを使っている。
ので、あとから追加された24mm、35mm、65mmの3本のDG DN Contemporaryについて、実写作例もごらんいただきつつぶつぶつやっていきたい。
3本とも発売されてからだいぶ経ってしまって今さら感もなくはないのだけれど、noteでも紹介したのを放置したままなのも気がとがめる。
そういう次第で3本まとめてのレビューである。
目次
「I」シリーズはSIGMA fpファンのための新ジャンル
世界の光学メーカー各社が高性能レンズの基準を引き上げるきっかけになった「Art」を生み出したシグマが、小型軽量フルサイズミラーレスカメラSIGMA fpを愛する趣味人のために開発したキュートで小粋なレンズ群が「I」シリーズだ。
SGVのプロダクトラインとしては、お手ごろクラスの「Contemporary」に属するが、見た目と触感がレンズの性能として設計思想に組み入れられている感があるのが異なっている。
外装はほとんどが金属製の部材で構成されていてぜいたくなつくりが特徴的だ。
削り出し加工ならではの輪郭の立ち具合が全体のきりっと引き締まった印象につながっていて、メカ好きの目を引きつける効果を果たしている。
手に持つと中身詰まってるなぁと感じさせる重さがあって、それから金属鏡胴らしい冷たさが伝わってくる。
沼の人と呼ばれて反論をためらう者であれば、だいたいはこの時点でにやけてしまっているに違いない。
操作感もよければ操作音もいい
操作感が見掛け倒しなんてことはもちろんない。
「I」シリーズのどれかを初めて手にしたなら、まずいちばんに絞りリングの感触を試してみてほしい。
極上のクリック感が味わえるからだ。
合成樹脂製の絞りリングの場合、手で持つことでかたちがわずかに歪んでしまう。そのせいでなめらかにまわってくれないことがある。
それに対して、「I」シリーズの絞りリングは削り出しの金属製。ちょっとやそっとの力では歪まない。なので、操作感にムラが出ない。部品の加工精度、組み立て精度のよさもあるが、金属製部品だからこその動きのなめらかさも操作感のよさにつながっている。
音もいい。
開放F値から最小絞り値までのひとつひとつのクリックが、コッ、コッ、と存在感のある音を響かせる。
動画がおもな用途の人には邪魔なだけかもしれないけれど、静止画を好む人にとってはこのクリック音はたまらないのではないかと思う。
フォーカスリングも心地よい。
ショートフランジバックのミラーレス用のDG DN Artのフォーカスリングは爪の先でも楽にまわせる軽さでこれはこれで気持ちがいい。
それに対して「I」シリーズのフォーカスリングは、しっとりと言うか、ねっとりと言うか、上品で少しなつかしい粘り気がある。
ていねいにグリスアップされたMFレンズのような感触で、これもまたたまらない。
おかげでSIGMA fpを連れて出かけるたびに、絞りリングとフォーカスリングの耐久試験をしている気分になる。
用もないのにまわしてしまうからだ。
もはや指先のビョーキである。
フードやキャップまで金属製
開放F2の35mm Contemporaryと65mm Contemporaryには、新型のフォーカスモード切換えスイッチが採用されている。
45mm Contemporaryと24mm Contemporaryのは従来どおりの前後方向にスライドさせるタイプなのに対して、新型は円周方向にスライドさせる仕様だ。
コンパクトサイズのレンズの場合、前後方向のスライドだとスイッチの移動幅が制限されるために窮屈な操作となりがちだが、円周方向のスライドだと移動幅を大きくとれることもあって、カメラを構えた状態で操作しやすい利点もある。
このへんもよく考えられているなぁと思う。
フォーカスリングと絞りリングのあいだに設けられているカバーリングもおもしろい。
この部分だけヘアライン加工がほどこされていて見た目上のアクセントになっているし、レンズ交換時の指がかりとしても活用できる。
同社のIシリーズ特設ページでは製品に詰め込まれたこだわりがみっちりと紹介されているので、もっと深い部分まで知りたい方はそちらをごらんいただくのがいいだろう。
なにしろ、付属品にさえこだわりまくっているのだ。
レンズに同梱されている専用のフードも外観は削り出しの金属製。滑り止めもかねて手間のかかるローレット加工までほどこされている。
ただし、この細かい溝に小さなゴミがはさまってくれるものだから、きれいに保つのが骨だったりする(ブツ撮り前の掃除も手間だし、撮ったあとのゴミ消しにも時間がかかっているのだ)。
さらに磁力吸着式の金属製フロントキャップまで用意するという凝りようだ。
残念ながら、フードを着けっぱなしにしたいワタシにはこの金属製キャップはうまく活用できなかったが、仕掛けとしては大変におもしろいと思う。
レンズというものが趣味の製品であることをあらためて思い出させてもらえたのもうれしいことだった。
ひたすらに寄れるコンパクトな24mm
さて、ここからは「I」シリーズの3本を実写作例つきで紹介していく。
今どきの単焦点レンズとしては開放F値が暗めなのだが、この小ささだもんなぁと納得できてしまうのが24mm F3.5 DG DN Contemporaryである。
外見が45mm Contemporaryとそっくりなのを判別しやすくするためか、付属のフードは花形になっている(エッジが鋭くならないように面取りしてある)。
光学系は8群10枚構成。絞りをはさんで前後の光学系が対称に近い設計で、特殊低分散のSLDレンズが1枚と非球面レンズが3枚使われている。
最短撮影距離は10.8cm(0.108m)と短く、最大撮影倍率は1:2(0.5倍)。45mm Contemporaryも最大撮影倍率1:4(0.25倍)と寄れるレンズだが、それ以上にこの24mm Contemporaryは寄れてしまう。MF時代ならマクロレンズとして通用するスペックだ。
ちなみに、最短撮影距離でのワーキングディスタンスはフードをはずした状態で3.5cmほど。なので、めいっぱいの近接撮影ではレンズ自体の影との戦いになる。そのへんの実用性面では微妙なところもあるが、広角で寄るのが好きな人には楽しいレンズだ。
以下、作例画像はSIGMA fp Lで撮ったJPEG画像をPhotoshopでリサイズして長辺を1200ピクセルにしたものを掲載する。
基本的にカラーモードはスタンダード。レンズ光学補正は「回折」はオン、「周辺光量」はオフにしている(「歪曲」と「倍率色収差」はオートで固定)。
絞り開放でも中心部はキレのいい描写。四隅も悪くはないが、F5.6からF8ぐらいまで絞ったほうがシャープになる。
置き去りにされた洗濯ばさみに寄ってみた(と言っても撮影距離で30cmぐらいだけど)。拡大しないとよくわからないけど、背景のボケも自然でいい。
絞り開放では予想どおりの周辺光量落ちがいい味を出してくれる。これを補正しちゃうなんてもったいないと思ってしまう。
でも、頑固なんでF11まで絞っても少し残る。
こちらは1000×1000ピクセル分のピクセル等倍切り出し。画面中央部は絞り開放でこのシャープさはさすがシグマって感じである。
緑色の網のフェンスの支柱だけが残っているのが気になって撮ってしまった1枚。屋根が右下がりで左端が持ち上がっているのはそういうかたちだからで、歪曲収差はカメラ内で補正されている。
拾った松ぼっくりを最短撮影距離で。素直で自然なあとボケが素晴らしい。絞り開放だと少しアマくなるのでF5.6に絞っている。
ほどよい広さと明るさの35mm
35mm F2 DG DN Contemporaryは伝統的な広角レンズの焦点距離。スナップや風景、人物など、さまざまなジャンルで使える汎用性の高さが魅力だ。
ちょっと明るめのF2で、24mm Contemporaryよりは大きくて重いが、F1.4に比べればぐっと軽快で身軽な撮影が楽しめる。
光学系は9群10枚構成で、最近流行り(?)の前玉前面が凹面の設計だ。SLDレンズが1枚と非球面レンズが3枚使われている。
9枚羽根の円形絞りを採用している。7枚羽根の24mm Contemporaryと45mm Contemporaryよりも格上感がある。
最短撮影距離は27cm(0.27m)、最大撮影倍率は1:5.7(約0.175倍)。24mm Contemporaryや45mm Contemporaryが寄れるだけにもうひとつに思えてしまう。
SIGMA fpに着けるとちょっと大きく感じられるものの、重量バランスはそれほど悪くはない。と言っても、前面に指がかりがないとホールドが不安になるので、グリップはあったほうがいいだろう。
コンクリートの柱を並べたフェンスを青空バックにパウダーブルーで撮った。のどかで好き。
何気なく撮った壁なんだけど、ピクセル等倍で見ると解像感のすごさに声が出た。6100万画素とContemporaryの底力に脱帽だ。
SIGMA fp Lの力もあるのだけれど、有効6100万画素のピクセル等倍でもびくともしない解像力を備えているのがわかる。壁のぷつぷつの再現とかほんとにすごい。
絞り開放だとそれなりに周辺光量は落ちる。が、青空を濃くする焼き込みフィルターだと思えば便利なだけだし、2段絞れば気にならなくなるからあえて補正を切っている。
35mmの穏やかな広さは強い個性ではないけど、50mmにも28mmにもないちょうどよさがあるように思う。まあ、好みの問題かもしれないけど。
最短撮影距離付近。24mmと45mmが寄れるだけにもうちょっと感がある。絞り開放だとアマさが気になるかもしれないので、その場合は1段絞るといい。
思っていたより目になじむ65mm
標準と言うには長くて中望遠と呼ぶには短い、中途半端感たっぷりな焦点距離(MACRO APO-LANTHARというすごいのがあるけどね)がこの65mm F2 DG DN Contemporaryの特徴だ。
どっちつかずな焦点距離とも思えるが、使ってみると思いのほか目になじむ画角だったりする。
「I」シリーズでもっとも大きく重く、フードを着けた状態で464.5g(実測値)。SIGMA fpのボディより少し重い。フロントヘビーになるのでグリップを着けたほうが持ち疲れしにくいだろう。
光学系は9群12枚構成で、35mm Contemporaryと同様、前玉前面が凹面の設計。SLDレンズ1枚と非球面レンズ2枚が使われている。
35mm Contemporaryと同じく9枚羽根の円形絞りを採用している。
最短撮影距離は55cm(0.55m)、最大撮影倍率は1:6.8(約0.147倍)。もうちょっと寄りたいなぁと感じることもちょくちょくあった。
画素数に余裕のあるSIGMA fp Lならクロップズームで近接能力を上げられるが、SIGMA fpだとクローズアップレンズを使うのがいいかもしれない。
ただ、35mm Contemporary(58mm径)と違って62mm径なので、アタッチメントを共用できないのは残念なところだ。
通りすがりに撮った喫茶店のディスプレイ。パウダーブルーが楽しい。
四隅までバッチリなシャープさが欲しければF5.6ぐらいまで絞ったほうがいいけど、中央部は絞り開放でも素晴らしくキレる。
見た目はやわらかいんだけど、細かいところまできっちり解像している。多画素+ローパスフィルターならではの表現だと思う。それに負けないシャープさが絞り開放から得られるんだから素晴らしい。
「I」シリーズのほかの3本と違ってこのレンズは絞り開放の近接でもけっこうシャープ。前後のボケもやわらかくて自然で、ほんとずるいよなぁって思える写り。
これでもう少し寄れれば最高なんだけどね。
サビの浮いた鉄材の質感はFoveon物件な気もするけど、SIGMA fp Lにもよい。素直に素晴らしい。
あまりなじみのない焦点距離ではあるけれども、ワタシ個人はわりといい距離感で構えられる気がしている。背景がボケすぎないのもちょうどいい。
まとめて買っても大三元1本分のお手ごろさ
Artレンズの重さがいやになったわけじゃないけど、歳を取るほどに「軽さ」というスペックのありがたみが身にしみるようになってきた。
でもその一方で、ローグレードなレンズではもうひとつ気が乗らない。いちどいいものの味を覚えた指はわがままになるものなのだ。
そんな無い物ねだりな悩みを持っているのであれば、「I」シリーズは是非とも選択肢に加えるべき製品群だ。
コンパクトでいて軽すぎず、手に触れて操作して心地よい。そういう上質な撮影体験が味わえて、しかも机上に置いて眺めるだけでも飽きない。お値段だって目くじらを立てるほどには高くはない。
もちろん、写りは安心のシグマである。
Contemporaryラインだけに近接でのアマさや周辺光量の落ちは受け入れなくてはならないが、ちょっといい感じのレンズの基準とも言えるシャープでボケがきれいという特質をしっかり持ち合わせている。買って損をするようなレンズではないのである。
寄れるのがよければ24mm Contemporaryか45mm Contemporary。小さくて軽いからSIGMA fpにもばっちりだ。試してはいないが、α7Cにも似合うだろう。
ボケを楽しみたい向きには35mm Contemporaryや65mm Contemporary。明るさの分だけ大きく重くはなるが、DC-S5や一眼レフスタイルのα7系と組み合わせてもバランスはいい。
1本ぐらいなら、と油断して手を伸ばしたとたんにほかの3本まで生やしてしまうあぶなさもあったりするが、それでもカメラメーカー純正の大三元1本分の出費ですむのだから沼としては浅い。
安心してはまっていい。
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↓こちらはライカLマウント用。SIGMA fp、fp Lはもちろん、パナソニックSシリーズやライカSLなどにもぴったり。