ちょっと前にツイートしたのでご存知の方もおられるだろうが、ワタシの手もとにもシグマ70mm F2.8 DG MACRO Artが届いたのである。
シグマの70mm Artと言えば、伝説と化しているカミソリマクロことマクロ70ミリF2.8EX DGの後継であり、Artライン初のマクロレンズでもある。
あえて、Eマウントである。SAマウントではない。
今回は、この70mm Artの写りだとか使い勝手だとかと引っくるめて、どうしてEマウントなのか、ということについても、まとめてぶつぶつやっていきたい。例によって、お暇なときにでも楽しんでいただければと思う。
目次
AFがスムーズで気持ちいいからEマウントなのだ
前に14-24mm F2.8 DG HSM Artの記事で、いずれフルサイズのFoveon X3を積んだsd Quattro Fが発売されるに違いない、それに期待しているからSAマウントを選んだ、と書いた。
であれば、70mm ArtもSAマウントを選ぶのが筋である。
まして、70mmという焦点距離は、APS-Cサイズのカメラでは105mm相当になる。85mmよりも100、105mmが好きなワタシとしては、そちらのほうが断然おいしい。
しかも、フルサイズのα7 IIにとっては、70mmは少々中途半端な焦点距離になる。そのへんを考えても、やはりSAマウントを選ぶべきだったはずだ。
にもかかわらず、あえてEマウントを選んだのはAFである。
SAマウントレンズとシグマのMOUNT CONVERTER MC-11の組み合わせでのAFに比べて、EマウントレンズのAFが、思っていた以上によかったからだ。
SAマウント+MC-11のAFも普通に使っているぶんにはそれなりに快適だし、100-400mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporary(これもSAマウントにMC-11を組み合わせている)を使ってみての感覚でも、動きの速い被写体を追うのでなければ悪くないレベルの動きはしてくれる。
が、ネイティブの、最初からEマウントに最適化されたレンズに比べると、どうしても追いつけない部分がある。少しだけれど、AFの動きにまどろっこしさがある。
手もとにあるSAマウントのレンズとMC-11の組み合わせでは、AF-ON操作(ワタシのα7 IIは、シャッターボタンの半押しではなく、AF/MFボタンを押すことでAFが作動する、いわゆる親指AFに設定してある)からレンズが動き出すまでの反応が、ほんの少し遅い。
それと、AF-C(コンティニュアスAF)モードでAFを作動させると、超音波モーターが「くくくくく」というような音を立てる。一所懸命に頑張って働いてますよ、とアピールしているふうでもある。けなげなのだ。
それが、別のレンズではあるが、EマウントのArtレンズを試す機会があって、その折に、「あ、これは違うぞ」と感じてしまった。
Eマウントのレンズは、AF-ONですっとピントが動いてくれる。動き出しも早いし、AF-Cモードでの動作も滑らかだ。ハンチングっぽい音もしない。頑張ってるアピールなしで、苦もなく、さりげなく、あたりまえのように、動きにも追従する。
その動きがきれいなのだ。
スムーズで、心地よい。
こんなのを体験してしまったら、もう終わりである。
SAマウントとMC-11の組み合わせにはもどれない。
と言うと大げさかも知れないが、もどりたくなくなるのは間違いない。
細かなピッチで繊細なピント合わせが可能なバイワイヤMF
AFの駆動スピードはそれほど速くはない。が、長い繰り出しのあるマクロレンズでこのスピードならけして悪くはない。
AFのパワーソースはコアレスDCモーターで、超音波モーターやステッピングモーターのレンズに比べれば作動音は大きめだ。耳障りなほどではない。ワタシ的には許容範囲である。
フォーカスリングは、いわゆるバイワイヤ、つまり、リングの回転に応じてフォーカス群をモーターで駆動させる方式を採用している。
このタイプの通例どおり、回すスピードによってピントの動き具合も変化する。ぐいっと回すとぎゅんっと動くし、ちみちみと回すとゆっくり動く。
ほんの少しだけピントを動かしたくて、ちみちみっと回したときに、ピントの移動量が小さいからと焦れて大きく回すとぐわっと行きすぎる。あつかいに慣れないうちはそういうことが起きやすいので注意は必要だ。
ちなみに、α7 II装着時に、ものすごくゆっくりとフォーカスリングを回したときの、無限遠の次の数字は764mだった。ピント合わせの感覚が次元の向こうに吹っ飛んだような数字で、けっこうまじめにあんぐりした。
逆に考えれば、それだけ細かなピッチでピントを送ることができるということであり、クセさえつかんでしまえば、相当にデリケートなピント合わせが行なえる。
フランジバックの短さのぶんだけ長くなった鏡胴
さて、Eマウントのレンズは、フランジバックの短さのぶんだけ鏡胴が長くなっている。
シグマのカタログスペックの数字はSAマウントのもので、Eマウントとのフランジバックの差は約26mmある。そのため、Eマウントのレンズは、ウェブサイトの仕様ページに載っている数字よりも約26mmだけ長いことになる。
この70mm Artの大きさは、最大径70.8×長さ105.8mm。なので、Eマウントのレンズの長さは131.8mmになる。もともとが細身なレンズがさらに長くなるわけで、そこにフードも加えると183mmぐらいになる。
重さは570g(自宅のキッチンスケールではかったところでは576gだった)で、SAマウント(515g)に対して55gの差だ。MC-11が125gなので、SAマウントレンズとMC-11の組み合わせよりも70g軽い。マウント座金が2枚少ないのが効いているのだろう。剛性の面でもよくなっているはずだ。
ちなみに、ソニー純正のFE 90mm F2.8 マクロG OSSは最大径79×長さ130.5mm、重さ602gという数字。焦点距離もフォーカス方式も違うし、手ブレ補正機構の有無もあるが、似かよった大きさ、重さなのはおもしろい。
なお、FE 90mmマクロは148,000円。一方の70mm Artは69,000円(いずれも税別の数字である)。お金に不自由しているワタシとしては、断固69,000円を選ぶ。ぶっちぎりである。
半端感のあった焦点距離だが使ってみると気にならない
気になっていたのは、70mmという焦点距離の半端さである。
ズームレンズが一般化するより以前、国産メーカーの多くでは、50mmの上が85mmで、その上に100mmか105mmがあるのが普通だった。ライカには75mmとか80mmもあったように記憶しているが、70mmというのはあまり覚えがない(単にワタシが知らないだけかもしれないけど)。
最近でこそ、望遠端が70mmの標準ズームが増えた関係で、この焦点距離にもだいぶなじみが出てきた感はあるが、それでもやはり中途半端感はぬぐえない。
50mmと比べれば画角は狭い。なので、望遠にはなる。が、望遠らしさがはっきりと出せるぐらいに長くはない。撮っていても、もう少し(ズームリングが)回ってほしいなぁ、と思うことが頻繁にある。
望遠端が85mm、あるいはせめて80mmまであればもう少し使いでもありそうに思うが、70mmまでだとどうしても物足りなさのほうが強い。おもしろくない。
そういうのもあって、70mmという焦点距離に不安を感じていた。目になじんでくれるかどうか。そこが心配だった。
それが、使ってみると、それほど気にならない。
同じ70mmでも、標準ズームの望遠端の70mmにはいらいらしがちだ。望遠端までズームしても物足りなくて、だから仕方なしに足を動かすことになる。もう、なんのためのズームだと思ってるんだよぅ、って感じである。正直、面倒くさいんである。
それなのに、同じ70mmでも単焦点は苦にならない。
不思議に思うかもしれないが、いらいらもしない。
撮っているうちになんとなくわかったのだが、単焦点レンズだと、最初から自分が動く心づもりでいるのが大きいようだ。
ズームレンズだとリングを回してフレーミングを調整できるものだから、つい足が止まりがちになる。便利さのぶんだけフットワークが悪くなる。なのに、70mmで止まるものだから物足りなくて、動かなくてはならなくなる。それでいらっとなるわけだ。
一方、単焦点レンズは自分が動くのがあたりまえ。そういう覚悟でいるから、画面へのおさまりが悪いとすっと足が出る。便利さがないのをフットワークでカバーしようという気持ちのおかげで軽く動ける。だからストレスを感じにくい。
そういう感じがした。おかげで、画角に目が慣れていないにもかかわらず、あまりそれを意識することなく撮影できた。ようするに、気の持ちよう次第でなんとかなる。ワタシの勘違いでなければ、そういうことである。たぶんだけれど。
キレ、ボケともに素晴らしい軽快中望遠マクロだ
写りはさすがのArtである。
カミソリといううたい文句のとおりの切れ味が、絞り開放から楽しめる。
遠景を撮ってみた印象では、絞り開放よりは1段ぐらい絞ったほうが解像はいい。が、これは絞りを変えて撮り比べてわかる程度のことで、絞ったときの描写と見比べなければ、絞り開放でも文句なしにシャープだ。四隅はF5.6からF8あたりまで絞るのがよさそうに思う。
撮影距離1mぐらいだと、絞り開放でも四隅までキレる。周辺光量はそれなりに落ちるので、複写などでフラットな写りにしたい場合はF8まで絞るのがよさそうだ。
近接域は文句なしに楽しい。キレのいいシャープな描写とふわっと滑らかなボケが味わえる。これがなかなかにたまらない。
最近でこそ、シャープでかつボケのきれいなレンズも増えてきたが、昔はシャープなレンズはボケが汚いのが相場だったし、マクロレンズなどはシャープなレンズの筆頭格だった(だからこそ、タムロンの90mmマクロが「ポートレートも撮れる」と評判になったわけだ)。
そういう時代を知っているおっさんとしては、ボケのきれいなマクロレンズは、それだけで幸せになれる品物だったりする。
しかも、お値段はたったの69,000円。大手量販店の通販サイトの価格は60,000円を切る。もちろん、消費税込みでである。
シグマのArtラインのレンズで等倍マクロ。なのに軽快でハンドリングがいい。そのうえ描写はシャープ、しかもボケもよい。これだけそろえば60,000円なんてただみたいなものではないか。
これはもう飛びついていい。飛びついて損はしない。
マウントはシグマSA、キヤノンEF、ソニーEの3つしかないが、この3つのどれかをお使いであれば、断固飛びつくべきレンズである。
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